こんにちは!ひみ暮らしサポーターズの北條です。
前回の「スウプはやし」さんに引き続き、中央町商店街に新しくオープンしたお店からお届けします。
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商店街を歩くと目に留まるのは、アーケードから吊り下がる店舗の電飾看板です。意識して見てみると、現在も営業されているお店の看板がある一方で、すでに閉店したお店の看板も残っています。
4つの赤丸に丸ゴシックで「松 屋 会 館」と書かれた看板で足を止め、シャッター1枚分だけ開いた入り口を通ります。すると、小さい豆電球のガーランドで灯された細長い空間に、長さ不揃いの木材が存在感を放ちます。
まるで秘密基地のようなお店の名前は「Himi Brico Labo」。氷見市十二町の万尾前で製材業を行う岸田木材株式会社が、昨年7月末にオープンしました。
中を見渡すかぎり、直営店として木材を売ったり、ウッドボールなどの自社製品を販売したりする場所かと推測できます。しかし、一体どのような思いや考えがあり、この場所にお店を構えたのでしょうか?
「Himi Brico Labo」の運営を担当する明松(かがり)洋介さんにお話を伺いました。
ー はじめに、「Himi Brico Labo」の概要と、この場所に込められた思いを教えていただけますか?
明松さん|まず、私たち製材所が製品を届けるための前提として、注文数ちょうどを作るのでなく、予備用に多く作る必要があります。ところが、さまざまな種類の木材を取り扱うので、在庫がどんどん増えていってしまいます。
そこで「Himi Brico Labo」では、製材過程で生まれる端材やハネ品、余剰在庫などのアウトレット品を販売しています。また今後は、自社ブランドの小物製品を販売したり、DIYが好きなひと向けに工房として利用してもらうのを考えています。
「Himi Brico Labo(ヒミ ブリコ ラボ)※」の名前には、氷見にあるものを使って新しいものを生み出す研究所のような場所でありたい、という思いが込められています。
※ 氷見 × ブリコラージュ × ラボラトリー。ブリコラージュ(Bricolage)には、「寄せ集めて何かをつくる・修繕する」という意味があります。
この商店街でエンドユーザーと繋がることで、氷見の里山や生態系が継続的に保全されるだけでなく、氷見から新しい文化が創生されるのを願っています。
昨年2月、「考えるパンKOPPE」店舗前で端材などを無人販売してみたところ、地域の人たちから評判が良く、同商店街の空き店舗に拠点を構える流れになりました。
明松さんは大阪府出身。新卒で入社したのをきっかけに、氷見へ移住してこられました。大学時代は、建築分野(ランドスケープ)を専攻した繋がりで、まちづくりに興味を持ちます。「まちづくりがしたくて氷見へ来ました」とおっしゃる明松さんは、『製材所からのまちづくり』というテーマを抱き日々働かれています。
明松さん|製材所は、山とまちを繋ぐ場所であり、かつ土壌環境を作る場所でもあると思っています。つまり、ただ需要に応えるだけでなく、山を育て、使う側(まち)も育てる必要があります。そのために何をすべきか、常に考えていますね。
「Himi Brico Labo」は、まさに「山」と「まち」を繋ぐ場と言えそうです。氷見における、ふたつの関係はどのように変化してきたのでしょうか。
ー 今の社会では、山とまちの間に隔たりがあるように感じます。将来を見据えた時に、これらの関係性をどうしていきたいか、ビジョンはありますか?
明松さん|氷見の山は昔、漁業を支える造船用材としての役割がありました。しかし、船の材料が木材からFRP(繊維強化プラスチック)へ変わると、地産地消の循環が途絶えてしまいました。戦後には、電柱用材として使われるのですが、同じくコンクリートへ置き換わってしまいます。さらに、海外産の木材を使うのが当たり前となり、地元の木材を使う機会がほとんど無くなってしまいました。
そこで、山とまちを繋げて暮らしに木材を取り戻したい、という願いを「Himi Brico Labo」は持っています。
私たちとしては、これからの氷見を作っていくために、もう一度、山の使い方をどうすれば良いか、まちから考えていきたいと思っています。『まちが良くなることで、やまも良くなる』、そんなストーリーを描いています。
木の良さをどのように伝えるか。明松さんが仕掛人となり、さまざまなアイデアを具現化しています。
会社として常に意識しているのは、木材資源を無駄なく使い切ること。このスツールも、できるだけ無駄が出ないような工夫がなされています。
昨年、文化の日に開催された「ヒミ一箱古本市」は、山とまちの程よい関係性が表れた取り組みだったと言えるでしょう。
明松さんは、本をディスプレイするための本箱を出店者自ら制作するワークショップの講師としてイベントに携わりました。
このワークショップを通して、明松さんは、今の社会と木を取り巻く環境が重なり合う部分に、「Himi Brico Labo」の存在意義を見い出したといいます。
ー 出店者が自ら本箱を作るところから始まる「ヒミ一箱古本市」は、珍しい取り組みだと思います。ワークショップの講師として参加された明松さんの視点から、振り返ってもらえますか?
明松さん|ワークショップを通しての気づきは、「本箱作りに関心・興味はあるけど、難しそう、分からないからどうしよう・・・」という人が多くおられた、ということですかね。
これは、今の世相を表しているように感じられました。情報社会になり選択肢が膨大に増えたことで、「右倣えだった窮屈な社会から解放されたい。でも自分は何をしたら正解なのだろう?」と、人びとのなかに迷いが生じていると思います。「平均的が良いとされる風潮から脱却したい」、そんな訴えを感じたのです。
それを木材に当てはめると、木に触れて遊ぶ木育からステップアップして、これからは、一人ひとりの意思が反映できる余白を残すことが、私たちに求められていると思います。
なので今回のワークショップも、木材を使う条件以外は、自由な形式にしました。講師役の自分のひと言目が「さあ何からしましょうか?」から始まったので(笑)。
ワークショップの開始直後は、みなさん戸惑っていましたね。普通のワークショップは、キットになっていて、あらかじめ決められた完成形に向かって手を動かしていくものですから。なので最初の方は、自分が用意してきた見本に合わせて本箱を作っていく雰囲気でした。ところが次第に、発想豊かな本箱を作る方が出てきて、全くのゼロから作りあげていく面白さを共有する場になったと思います。
最終的には、単に作るだけでなくて、「こういう本箱が作りたい」という” 描き方 ”を学べるワークショップになりましたね。
出店者が制作した本箱のー例。魚の形をした仕切り板が、氷見らしくて可愛いです。
尻尾のおかげで、スライド調整が可能に
ー 最後に、「Himi Brico Labo」として目指す姿を教えていただけますか?
明松さん|「ヒミ一箱古本市」のワークショップでの経験は、「Himi Brico Labo」がエンドユーザーに対して何の価値を提供するか、という点を再確認できたイベントでもありました。
これからは、誰かが「暮らしにこういうものが欲しい」となったときに、設計図の前段階にあたる描き方を一緒に練習できるコンテンツを提供したいと思います。何か必要なものを作りたいひとをサポートする、DIY相談室のような場にしていきたいです。
ー ありがとうございました。
(取材日:2021年12月1日)
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今、氷見のまちに、木と関わる余白が生まれています。
その余白は、里山の資源を活用した商品を購入したり、DIYのワークショップイベントに参加したり、人びとの暮らし方によってさまざまです。
ぜひ一度「Himi Brico Labo」へ訪れて、みなさんの暮らしに合う、木との関わり代を探してみてはいかがでしょうか。
<営業情報>
Himi Brico Labo(ヒミ ブリコ ラボ)
場所:富山県氷見市中央町11-27
営業日:水、土曜日
営業時間:9:00 〜 16:00
Instagram:@himibricolabo