静かにじわじわと変わり始めている。
氷見の町中で日々の生活を送っていると、そう感じる事があります。
みらいエンジンスタッフの岸本です。
少し外に出ただけで、溶鉱炉に突っ込まれる鉄のように溶けてしまうんじゃないかしらと思う程、強い日差しと猛暑の夏は過ぎ去り、晴れた空の下を歩けば頬をかすめていく涼風がなんとも心地よい季節がやってきました!
秋冬が大好きな筆者、とりわけこの秋口の空気や雰囲気が大好きなので、枝葉の先から色を変え始めた街路樹を見るだけでも嬉しくなります。
まさに今、外で過ごすことを楽しむための季節と言っても過言ではありません。
秋と言えば行楽シーズンと続くのも頷けますね。
地域のお祭り系はまだまだ再開の機を待たれていますが、何やら新しい遊びの企画があると聞いて、行ってまいりました!
氷見駅からは徒歩約10分足らず。
中心市街地の商店街の裏を流れるこの湊川が今回の会場です。
実はここは筆者の家からすぐの場所。
幼い頃から幾度となく歩いてきたこの道は、筆者にとってはただの裏道でしかなく、「ここでイベント?こんな場所で何を?どんな?」と頭の中にたくさんの疑問符を抱えながら到着しました。
これが今回のイベント。
その名も「sur la Minatogawa」
フランス語で「湊川で」という意味らしいです。
フランス出身ライフスタイルアドバイザーでエッセイストのフランソワーズ モレシャンさんによるトーク、ものづくりワークショップ、てんません遊覧、そして湊川アペロ。
おもしろそうな企画ばかりで、期待値がぐんぐん上がってきます。
しかし筆者の頭の中の疑問符がまた一つ増えました。
「アペロってなんぞ??」
首を傾げつつ歩いていくと、準備が始まっていました。
ここでは、ワークショップが行われるみたいです。
魚の皮とウロコで作るグラスマーカーと、アウトドア用の椅子作りを体験できるそうです。
ちなみにここは当サイト内の記事で以前ご紹介したみなとがわ倉庫の中庭。
川を挟んで反対側でも準備が始まっていました。
机やいすが並べられ、なんてことない川沿いの裏道がイベント会場へ様変わりしていく様子に、わくわくします。
船頭さん達が法被に着替えたところで、時間は15時少し前。
フランソワーズ・モレシャンさんのトークショーが始まるので、すぐ目の前の中央公民館へ移動しました。
トークテーマは「お外文化のフランスとお宅文化の日本」。
日本人は家の中で過ごす姿や家の中を人に見せないようにする傾向があり、反対にフランス人は外で過ごすことや家に知人や友人を招くことが大好きなのだとか。
筆者の印象に残ったのは、モレシャンさんがご自身の日本のお家のベランダにテーブルと椅子を置けるよう改装したいと思って施工業者を呼んだら、「ベランダをそんな風に使うなんて」と驚かれたというエピソードでした。
確かに、筆者もベランダ=洗濯物を干す場所と当たり前のように思っていたというか、それ以外の発想を持っていなかったなと気付かされました。
そして、日本でもカフェのテラス席が増えてきたけれどまだまだ少ないと感じている事や、もっと気軽に家に招きあったり、人と交流して一緒に過ごす時間を気軽に楽しんでほしい事や、フランス流のアペロを楽しむための極意や流儀などをユーモアたっぷりに話されていました。
そもそもアペロと言うのは、フランス発祥の”ちょい飲み文化”のこと。
元々は「アペリティフ(apéritif)」というフランス語で”食前酒”という意味の言葉を略したもので、「夕食前に軽く1杯飲むこと」をフランスではアペロと呼んでいるそうです。
フランスでは20時~21時に夕食をとることが多いそうで、また、日本のような居酒屋の文化が無いので、夕方から割安でお酒を提供してくれるカフェやバーで軽く飲んでおしゃべりする時間を楽しむ人が多いそうです。
そしてアペロを楽しむ時に必要なのが軽いおつまみ。
ハムやクラッカー、ピスタチオなどが定番のおつまみなんだそうです。
日本人に馴染が深いもので例えたら……グラスビールと枝豆のような感じでしょうか。
ただ、アペロは大前提として、あくまでも「食前酒」であり、夕食までのつなぎ。立ち飲みが主流で、軽く1〜2杯飲んだらすぐに解散するのが当たり前だそうです。
なるほど。夕食までの時間を軽いおつまみとお酒とおしゃべりと外の景色で楽しむ。
筆者の頭の中の疑問符が一つずつ消化されていきます。
筆者、完全にアペロと今回のイベントの趣旨を理解しました。
トークショーが終わって湊川へ出ると、時間はなんともアペロにぴったりの16時。
フード&ドリンクチケットを求める長い列が出来ていました。
みなさん長らくおうち時間を過ごしていたからか、あちこちで「お久しぶり!元気だった?」と声が上がっていました。
アペロの趣旨に沿って、お酒は度数が低く口当たりの軽いもの、フードも満腹にはならないおつまみ程度で揃えらえています。
おつまみは市内の飲食店さんを中心に、お隣り石川県金沢市からもサンドイッチ・デリのお店「MONET」さんに来て頂いています。
いずれこの湊川倉庫を改修してカフェの計画があるそうで、その際にパテやソーセージなどを提供してもらう予定のお店だと聞いて、近隣住民の筆者としても期待が膨らみます!
テーブルの上を見て筆者、さらにアペロを理解しました。
腹を満たすための食事の時間ではなく、人とのおしゃべりや一緒に過ごす事を楽しむための時間、そのためのお酒とおつまみ。
それがアペロの真髄であると解釈しました。
フランスのアペロがレストランではなくカフェで行われるというのも頷けます。
まだ日の高い時間から美味しいおつまみとお酒とおしゃべりをしながら、秋風の中、てんま船遊覧を楽しむ…
贅沢で、優雅ですね。
貴族の遊びの様ですね。
さて、ここで今回のイベントの主催者について紹介させてください。
「on the Minatogawa一般社団法人」
ひととひと、場とひとをつなげ、
聞いているだけワクワクする活動内容で、まさに人と人、場を繋げて交流を楽しもうという理念がアペロの定義と重なります。
ワークショップ会場にも、マスク越しに分かるほどの笑顔が溢れていました。
今回、ものづくりワークショップを提供してくださったのは、氷見市在住の職人さん達。
靴職人の釣賀 愛さん。
そして、当サイトでもお馴染、革職人の野口 朋寿さん。木工職人の平川 大さん。こちらのお二人は移住者さんです。
お祭りのような派手な賑やかさではなく、日常にちょっとした楽しい時間をプラスするような今回のイベント。
今回のこのイベントを主催したオンミナの方に「この場所でこんな風に楽しい時間を過ごせると思わなかった。よく思いつきましたね」と話しました。
すると「景色が素敵だから、外に出て過ごすことをみんなで楽しみたいなって」と、なんとも肩の力が抜けるような言葉。
だけど、自分自身が楽しむ事、気軽な楽しさを共有する事。それってとても大切ですよね。
一番大切な事にも思えます。
そして今回のイベントに参加して筆者が強く感じたのは「No border」でした。
出身地や住んでいる場所、年齢、性別、職業、そういった垣根が一切なく、ひととひとが気軽に繋がり、楽しい時間を過ごせる場所がここにありました。
冒頭でお伝えした通り、ここは幼い頃から知っている裏道ですが、まさかこの道でこんなに素敵な光景を見ることが出来るとは思っていませんでした。
もしかしたらまだまだそんな場所が市内にはたくさんあるのかもしれないと思うと、今までただ通り過ぎていた見知った場所にも可能性を感じます。
いつもは静かな場所に初めて響いた、この景色でお酒を楽しむ人々の声。
氷見も静かにじわじわと変わり始めているのだなと感じました。
それは、誰の目にもはっきりと見えるような派手で大きな変化ではありません。
朝の海鳥の鳴き声も、夕方に山へと帰っていくカラスの声も響き渡るような静かで小さな町ですが、例えば、外側からの新たな勢力で大きな建物がドカンと建つようなそれではなく、人の体温で内側からじわじわと熱が広がって変わっていくような変化。
そういうものを感じました。
日本でも最近アペロが楽しめるお店や人が増えてきているのだとか。
そしてその楽しみ方は氷見でも広がっています。
ぜひお気に入りの場所でアペロを楽しんだり、アペロを楽しめる空間を作ってみてはいかがでしょうか。
【sur la Minatogawa】
主 催 :on the Minatogawa一般社団法人
公式HP:Facebook
■ものづくりワークショップ提供(順不同、敬称略)
野口朋寿(革職人)「tototo」
平川 大(木工職人)「laboratorio da h」
釣賀 愛(靴職人)「靴のつるが」
■飲食提供(順不同、敬称略)
柿太水産
さがのや
ひみつカレー
toranekoya
MONET