未来を体験する「一日食堂」

その日、商店街の一角にあるシャッターが開き3年ぶりに看板に明かりがともった。

 

事前申し込み制の食事会という形式で15名ほどのお客が入り、満席となった店内には氷見の魚を楽しむあたたかな時間が流れていた。照明が消え整頓されていた店内は、談笑する声により息を吹き返したようだった。

 

腕を振るう「一日限定」の料理長、食を楽しむ「一日限定」のお客さん、そして裏方をてきぱきとこなすオーナーさん。
集まった人たちの姿をみて、早くも企画をやってよかったと実感した。

 

ひとつでも、一日でも、シャッターが開けば……

 

シャッター商店街という言葉はもはや聞き慣れたもの。名の知れた都市にさえ、シャッターが並ぶ風景がみられるようになった。氷見においても高齢化の進む中心市街地からは長年親しまれた店が少しずつ姿を消している。

 

「空き店舗を使った一日食堂」という企画はそうした状況のなか、商店街で少しでも活気づくりにつながることができないかという発想からスタートした。

 

 

氷見の商店街。シャッターの下りた店が少しずつ増えている。

 

ある日、常々相談していた市役所の方から連絡が届いた。

 

「一日食堂に関心を示してくれた方がいる。素敵なお店の持ち主で、すぐにでも営業できるほど綺麗に手入れをしていらっしゃる」

 

教えてくれたのは、商店街にある元お寿司屋さんについて。
実際にお店を拝見しにいくと、驚くことに冷蔵庫やネタケースなどほとんどの設備が今も使える状況となっている。この店は住居併設で今もオーナーさんが住まわれており、普段から店舗玄関を通じて出入りをしているため、店舗部分が綺麗なまま保たれていたのだ。

 

 

「一日料理長候補」と店内を下見にうかがったときの様子。開店準備中にもみえるほど手入れがいき届いている。

 

さっそくアイデアを説明したところ、地域の活性化に想いのあるオーナーさんは快く賛同してくれた。
了解をいただくとすぐに「料理長候補」に連絡する。

 

協力隊同期メンバーに、魚をこよなく愛する男がいる。店をみた瞬間に、彼がカウンターに立っている姿がすぐに思い浮かんだのだ。

 

魚のまち氷見に魚好きの集まる場所を―、『ひみ定置網』

 

一日食堂とはいわば、事前に呼びかけたメンバーを招いて行われる本格的な「お店やさんごっこ」だ。

 

料理好きな人が思う存分腕をふるって、限られた時間だけその場所を理想の空間に変える。ホームパーティでは味わえない「もしも自分がお店を開いたら」という感覚を体感する機会として、使われていない空き店舗に光を当てようという狙いがあった。

 

第1回目の料理長は地域おこし協力隊の左座(さざ)さんは、魚食文化の普及をテーマに活動に取り組む。それまでもイベントで腕を振るってきたが、この日は「自分の店」ということで気合の入り方も普段とは一味違うようだった。店内レイアウトに料理の仕込み、提供の順番など、空間を意識した本格的な準備が進んでいった。

 

 

ネタケースに並んだ魚、魚、魚。

 

当日は看板や張り紙が用意され、ネタケースにはずらりと姿のままの魚が並んだ。

 

大量の魚が次々と捌かれて提供されていく様子は見ていて爽快。集まったお客さんは、左座さんによる魚の解説のもと、馴染みの魚から見たことも聞いたこともない名前の魚まで、その日限りのフルコースを堪能した。

 

最後には見事にネタケースが空になり、一日食堂はめでたく閉店となった。

 

 

一夜限定『ひみ定置網』。

 

魚だけでない氷見を味わう――元気野菜のスペシャルランチ

 

 

第2回では移住体験ツアーの参加者にスペシャルランチを提供。

 

第1回の夜から間もなく、第2回を開催した。
移住体験ツアーの一環として、参加者に氷見の食材を使い、氷見の住人が振る舞う料理を食べてもらいたいと考えたのだ。

 

2回目の料理長も、同じく協力隊員に依頼した。農業の6次産業化などをテーマに活動する澤田さんは、和洋中なんでも洒落た美味しい料理に仕上げる、仲間内には知られた料理の腕の持ち主だ。

 

依頼を快諾してくれた澤田さんは、左座さん同様、店内をみてアイデアを練る作業からスタートした。店内の雰囲気、食器、客層など、様々な要素から当日の店内をイメージしていく。

 

 

渾身のランチは自然栽培野菜を中心としたヘルシーな献立。

 

そうして、再びシャッターが上がった。

 

カウンターに並ぶランチのなかで、寿司下駄に配置された色とりどりの料理が特に目を惹く。
使われた野菜は澤田さん自身が育てたものや、知り合い農家さんからもらってきたものなど、それぞれ身体にやさしい自然栽培というこだわりも光った。野菜中心ながら、海のまち氷見であるから魚も忘れられない。魚のフライト並んでメニューに入ったすり身揚げは、実はオーナーさんがつくってくれたもの。よそとは違うこだわりの味付けに、澤田さんからお願いして一品つくってもらうことになったのだった。

 

目にも楽しいヘルシーランチは参加者によろこばれ、あっという間に完食となった。

 

ありえる未来の第一歩としての一日食堂

 

2回の様子をみていただければ、同じ空間ながらそれぞれの料理長の個性が表れた店となっているのがわかっていただけるのではないだろうか。そしてまた、舞台となるお店への敬意も忘れず、場の力を活かした使い方になっているのを感じていただけたと思う。

 

これらの企画で目指したことは、「一日料理長」と訪れたお客さんの特別な体験の場となることと同時に、貸してくださったオーナーさんに小さなまちの変化を楽しんでもらうことにあった。2回の企画ではどちらもオーナーさんが積極的に手伝いに参加してくださり、イベント自体も楽しんでいただけていたように感じられた。

 

「機会があればまた使ってください」

 

イベント終了後、そんな言葉をかけていただけたことがなによりの成果だったように思う。

 

と、ひとまずの小さな成功によろこんでいると、もうひとつうれしいニュースが飛び込んだ。
一日食堂『ひみ定置網』の左座さんが、この度氷見で魚料理店をオープンする運びとなったのだ。

 

移住者としての大決断でそれだけでもよろこばしいことだが、一日食堂が店をはじめようと決意するひとつのきっかけになったといってくれたことがさらにうれしかった。

 

 

『ひみ定置網』左座さんが自分のお店をオープン。

 

ここまでのケースはなかなかないかもしれない。
けれど、こんな未来もある。

 

いつか氷見でお店をはじめたいと思っているみなさん、一日食堂から夢のお店をはじめてみませんか?

 

文・写真:氷見市地域おこし協力隊 藤田智彦

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