こんにちは!サカナとサウナの昆布です。
ある日、さぁ仕事へ行こうと意気込んで家の扉を開けてマンションのエントランスを抜けると、ギラギラとした日差しが背中を照りつけました。眉をひそめ目を細めながら、何のこれしきと車に乗り込んだ瞬間感じる、まとわりつくような異様な熱気。快適な家に帰ろうかしらと弱気になる心を奮い立たせるべく、
「これからの外回りは大好きなサウナに常に入れるようなもんだと考えたら楽じゃないだろうか」
という暴論で自分を納得させ、暑い一日をスタートさせました。
回りくどい言い方ですが、とにかく氷見も暑くなってきましたとお伝えしたいのであります。30℃近くなる日も多くなったので、秋から春までしばらく(本当に!)付き合った長袖に別れを告げ、年甲斐もなく半袖半ズボンで町をうろついています。
「港町は浜風で涼しそうだね」
なんてことを東京の友人に言われるのですが、ところがどっこい気温が高くなると浜風も熱風へと変わります。湿気を多く含んだ浜風は体にまとわりつき、赤潮が発生すれば海から生臭い香りを運んできます。サウナにたとえれば、日差しが海に照りつけて水蒸気を発生(ロウリュ)させ、浜風がその赤潮アロマ水蒸気をアウフグースしているような感じ…でしょうか。こりゃあ整うもんも整いませんわ…。
あぁこんなめちゃくちゃなことを思いついてしまうのも、なおかつ文字に起こしてしまうのも、急激に暑くなった気候のせい…。どうぞ湿気多めの温かい目で見守ってくださいませ。
閑話休題。気温が高くなってくると心配になるのは毎日の漁獲。基本的に氷見では秋から冬にかけての寒い季節に良質な魚が大量に漁獲されることが多く、逆に春から夏にかけては回遊する魚も少なく、漁獲出来ても産卵を終えて脂の薄い魚が多くなる傾向にあります。
魚に関わっているとそんなマイナスのイメージが暑い季節には伴うので、気温が上がるごとに今日も魚が少ないかな~なんて気をもむこともしばしば。
しかしそんな春と夏の変わり目の時期にも、旬を迎える風変わりな魚介類はそれなりにいるもので。その代表が天然岩牡蠣。4月の終わりごろから漁獲が解禁され、8月の終わりごろまで市場に並びます。小さなものでも1個1000円を越えてしまうことが珍しくない高級食材ですが、養殖物が主の真牡蠣と比べると身が厚く、噛んだ時のジューシーさが特徴です。
氷見で食べるなら、魚屋さんでパカっと殻を開いてもらって、そのまま塩とレモンでちゅるっと一口で食べるのがおすすめ。身の味の濃さと豊かな食感は一度食べたら忘れられないほどですよ。
他にも夏にかけてはトビウオやアジ、スズキなどが旬を迎えるわけなのですが、前述の通りお魚の絶対量が少なくなるのがこれからの季節の痛いところ。その上ゴールデンウィークからお盆などこれからの季節は祝日が多く、頻繁に休市となるため漁自体がストップしてしまうこともしばしば。イチ消費者としてはそんな時期はお肉を食べていたらいいのですが、僕が経営する飲食店は「魚料理専門店」なもので。営業を続けるためには魚が必要なわけなのです。
ではそんな時にどうするかというと、補助的に氷見の伝統的な魚の発酵食品を使うことが多いです。
特に僕が気に入っているのは「こんかいわし」。
漢字で書くと米糠鰯。ぬか漬けにしたイワシを指し、氷見ではかなり昔から食べられている伝統食品です。春に大量に獲れたイワシを痛む前に塩漬けにした後、糠に漬けて夏ごろまで発酵させます。高温多湿な氷見の夏の気候が糠の乳酸発酵を促進させることから、昔はどの家庭でも自分の家オリジナルのこんかいわしを作っていたと聞きます。
今では水産加工屋さんが各々糠の質やイワシの種類を工夫してオリジナリティ溢れるこんかいわしを製造していますので、食べ比べが非常に楽しいです。ご飯の上に乗せてそのまま食べるならこれ、料理のアクセントに使うならこれ、なんて使い分けするのもおすすめです。
当店で人気なのは、こんかいわしを乳製品と組み合わせた料理。
クリームチーズの中に刻んだこんかいわしとニンニクを練り合わせた「こんかいわしのクリームチーズ」。クラッカーに付けて食べるとワインが止まらない一品。
そしてこんかいわしと生クリームで作ったソースと共に里芋をオーブンで焼き上げる「こんかいわしと里芋のグラタン」。こんかいわしの独特な発酵香が生クリームと合わさるとブルーチーズのような香りとなり、こちらもワインにピッタリな味わいとなります。
特徴的かつ様々なアレンジが可能で非常に魅力的な食材「こんかいわし」。鮮魚が少ないこんな時期だからこそ、日々様々な可能性を探りながらこの伝統食品に向き合っています。
今回は初夏の氷見についてご紹介しました。冬の寒ぶりや寒ダラなどの豪快な魚は中々そろわない季節ではありますが、夏も岩牡蠣などの特徴的な魚介類は揚がりますし、いざとなったら長期保存が可能な発酵食品に頼ってみるのも良いものです。これも含めて港町の魚まみれの暮らし。
魚好きで好きでたまらない!なんて方のご移住、お待ちしております。